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「ただいま!」
立て付けの悪いアパートのドアをこじ開け、私は走って彼の元へと向かった。
彼は相変わらず畳に胡座をかき、原稿用紙に向かっている。しかし私の声を聞くと、ゆっくりと振り返った。
「おかえ……」
「怜ちゃん、載ってるよ、載ってるよ」
私は彼の言葉を遮ると、興奮気味に『読』を見せた。表紙の、彼のペンネームの部分を指差す。雑誌は紐で縛ってあったが、それを開ける時間も惜しい気分だった。
怜ちゃんはため息をついて頭を掻く。
「いや、だから……掲載されるって言っただろ。知ってるよ」
「でも、載ってるよ。うれしい」
私は言いながら、涙がぼろぼろと溢れた。
怜ちゃんは、小説家志望のフリーターだった。
若い頃には賞を取ったこともあるが、その後鳴かず飛ばずで担当からも見放されている状態だった。
それでも、怜ちゃんは諦めずに書き続けていた。私はそんな彼の夢を応援し続けた。
私は泣きながら「ハサミ」と呟くと、怜ちゃんは机の引き出しからハサミを取り出した。それを受け取り、雑誌の紐を切る。巻頭のコンテストの結果発表ページを見た。
私は彼の小説をほとんど読まない。応援するとは言ったものの、私は長い文章が苦手で小説はあまり好まないのだ。だから、彼が何を書いているのかもよくは知らなかった。
怜ちゃんの小説のタイトルは『いつまでも君と』とあった。選評によると、怜ちゃんには珍しく恋愛小説らしい。小説公募に出し続ける主人公と、同棲する女性のラブストーリーのようだ。
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