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「ふう……」
事務所に帰ってきた先野光介は、珍しくため息をつく。コートも脱がず自分のデスクについて、椅子の背もたれに体重を預けた。深夜の11時近かった。
そんな夜中にもかかわらず、事務所にはまだ何人かいた。
興信所「新・土井エージェント」の入る雑居ビルの一室だが、かなりの広さがあり、何十人もの所属探偵が日夜、依頼を解決すべく奔走していた。
先野光介もその一人であるが、こんな身分に納得していない。いつかは独立して個人事務所を持ち、一国一城のあるじとしてやっていきたいと夢みていた。
いや、一度は個人事務所の看板を掲げていた。しかし仕事がなく、続けられずに店じまいしたのだ。いわば夢破れてしまったのだが、その夢はまだ先野のなかで、昨夜のバーベキューで消しそこなった炭火のように往生際悪くくすぶっていた。
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