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「弥一の孫にしちゃあ、肝の据わったいい男に育ったじゃねえの。なあ、兄ちゃん」
「そうだな」
ヴィンセントが相槌を打った。
自分の与り知らぬところで認められ、褒められているらしい。晃一は自覚がないまま礼を言って受け取った。
両手で持ち、その重みと質感を確かめる。先ほどの冬治の説明は全く理解できなかったが、見ているだけでその存在に圧倒される。
「いい茶碗ですね」
「そうだろ、そうだろ。晃ちゃんもわかるようになってきたねえ。これだけいいモンに囲まれて暮らしていりゃあ、目も肥えるに決まっている。どうだい、俺んトコで修業してみねえかい?」
「え?」
「ならば、絵画については私がレクチャーしてやろう。これでヤイチの店も安泰だな」
「そりゃあ名案だ。言うねえ、兄ちゃん」
何故か意気投合する二人に、晃一は頭を抱えた。
自分の進路を勝手に決めないでほしい。だが、祖父やヴィンセントが愛するものを自分ももっと知りたいと思ったのは本当だ。
「考えてみます」
苦笑まじりに答え、晃一はカウンターに置かれた郵便物に目をやった。ダイレクトメールと一緒に、エッフェル塔が描かれた絵葉書が届いていた。
差出人は祖父だった。
「じいさん、九月末に戻ってくるらしい」
「まだ一ヶ月も向こうじゃねえか」
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