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「それは貴様らが勝手につけた呼称だ。生物の生き血を糧とするという意味では、あながち間違いではないが」
「じゃあ、人間の血も」
「例外ではないな」
晃一は思わず身を引いた。気分はうっかりライオンの目の前に飛び出してしまったウサギである。
ヴィンセントは小ばかにしたように笑った。
「フン、安心しろ。貴様ら人間だって、見境なく牛や豚を襲うわけではないだろう。我らにも自制心はある」
「だけど、さっき襲い掛かってきたじゃないか」
「……あれはたまたまだ」
己の失態を恥じるてか、ヴィンセントは顔を背けた。
「とにかく、私は『星屑散りて』が戻りさえすればよいのだ。長居はしない。さっさと持ってこい」
「じいさんが戻ってきたらと言ったじゃないか」
「気が変わった」
「そんなっ」
イヤだと突っぱねる晃一に、ヴィンセントは異様に尖った犬歯をちらつかせて言った。
「時間がないのだ。不本意にも貴様を襲ったのは、深刻な栄養失調のためだ。こうして紳士的に振舞っているうちに絵を渡せ。いつ何時、先ほどのように貴様を襲うかわからないぞ。それでもいいのか?」
完全に脅しである。
だからと言って、易々と引くわけにはいかない。
あの絵は祖父だけでなく、自分にとっても大切な宝なのだから。
「絶対に、イヤだ」
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