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「ほう……今この場で一滴残らず吸い尽くしてもよいのだぞ」
ヴィンセントの瞳が赤く揺れた。
「そんなこと、できるわけない」
「何だと」
キッと睨みつけ、晃一は断言した。
「さっき、あんたはオレの血を吸おうとして自分の血を吸った。理由は知らないけれど、誰かの血以外は飲めないんだろう。そんな脅しは無効だ」
両者の間に、火花が飛び散らんばかりの緊迫した空気が張り詰めた。互いに一歩も譲らない。
「……フン、血は争えんか」
折れたのはヴィンセントだった。
「ヤイチの孫だけあって、骨のある奴だ。それに免じてヤイチが戻るまで待ってやる」
晃一はほっと息をついた。
けれど、すぐに別の不安に襲われた。祖父が戻ってきたら、やはり『星屑散りて』を手放すことになるのだろうか。
「では、また来る」
ヴィンセントは立ち上がろうとした。しかし、目眩を起こして体が傾いた。慌てて支えると、「触るなっ」と厳しく拒まれた。
「不用意に近づくな。また襲われたいのか」
先ほどは「襲う」と脅したくせに。
よくわからない奴だと思ったが、悪い奴ではなさそうである。少なくとも、映画や小説のようにむやみやたらと襲う怪物とは一線を画している。
「栄養失調だと言っていたな。血が足りないのか?」
「貴様には関係ない」
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