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「ああ。トレに依頼されたと聞いたし、実際に模写をしていることも知っていた。巨匠の真作を目の当たりにしたのだ。勉強しない手はない。まさか、模写のほうを渡していたとは知らなかったが」
「じゃあ、本物は?」
「私が持っている」
真作はクロードが託した絵の中に含まれていた。あれは模写だと言い出すタイミングが掴めず、返しそびれたから返しておいてくれと頼まれた。結局、『星屑散りて』を弥一に貸したあとも、『合奏』だけが手元に残り、仕方なく持ち歩いていたのだという。
「ガードナー美術館に展示されていればすり替えるだけでよかったのだが、その前に盗まれてしまったからな。盗まれた模写がどこにあるかわからない状況で発見されたと偽って戻すのも、騒ぎになりかねない。だからずっと持っていたのだが、一体どうしたものか」
「綺麗な絵だからな。飾らないのはもったいない気がする」
いっそのこと、クロードの模写と一緒に光月堂に飾ってしまおうかと考えた。しかし、それはそれで騒ぎの元になりそうだ。黒田のような偏執愛好家がいつ現れるとも限らない。
考えあぐねていると、「晃ちゃん、いるかい」と冬治がやって来た。手には桐箱を持っている。
「ほれ、頼まれたモン」
「ありがとうございます。オレも、言われていたもの渡します」
晃一は届いたばかりの横山の贋作を差し出した。冬治は驚いて、「本当にもらってきちまったのかい」と言った。
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