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「他人が破くのもどうかと思ったので、冬治さんにお渡しします。横山さんのために、持っていってください」
「そうだな。こいつを目の前で破いてコケ下ろしてやりゃあ、いい薬になるかもしれねえな。すまねえ、晃ちゃん」
冬治は礼を言って絵を受け取った。
「あー、こんなことならもっと値の張るモンにすりゃあよかった」
「え?」
「箱、開けてみな」
冬治に促されて箱を開けると、中には壊れた志野茶碗ではなく、別の志野茶碗が入っていた。
「時代は下るが、なかなかいいモンだぜ。白素地に赤い火色がよく映えているだろう。志野は美濃焼の一様式で、日本で最初の白い焼き物かつ絵付された焼き物なんだ。ほら、ここに色が入っているんだろう。鉄絵を描いてから釉を厚くかけ、ゆっくり焼いてゆっくり冷ますんだ。素朴なんだが品のあるいい茶碗じゃねえか」
滔々と語る冬治に、
「あの、依頼していた茶碗は?」
遠慮がちに口を挟んだ。
「ん? ああ、ありゃあニセモノだ。昔、オレと出入りの職人で作って弥一を引っ掛けたんだ。売った後すぐにばれちまったけどな」
晃一は言葉が出てこなかった。
「まあ、あれはあれで気に入っているってぇなら今度持って来るさ。これは何つうか、晃ちゃんへのプレゼントだ」
「はあ」
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