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それを聞いたヴィンセントは目を見張り、やがて微笑した。
「そうか」
思いのほか柔らかな笑みに、晃一は胸が高まるのを感じた。同時に顔が熱くなる。
「ヴィンセントさえよければ、じいさんが戻るまでここに居ないか?」
知らずのうちに勝手に口が動いていた。
「何?」
「じいさん以外、ワイン飲まないからたくさん余っているし、近所に肉屋あるし、あの絵だって見たいときにいつでも見られる」
必死に言葉を繋ぐうちに気恥ずかしくなってきた。これではまるで、相手の気を引きたくてモノで釣ろうとするチンケなナンパ野郎ではないか。
このままヴィンセントと別れるのが惜しいという気持ちが先走り、柄にもないことを言ってしまった。後悔の波が後から押し寄せてくる。
「悪くない提案だな」
ワインの栓を抜きながら、ヴィンセントは言った。ワイングラスに注ぎ、その芳香を確かめる。
「ヤイチめ、美しいものと美味しいものに目がないのは相変わらずだ」
祖父はワイン通でもあった。都築家の台所には年代もののワインボトルがずらりと並んでいる。未成年の晃一にはこれまた興味のない代物であった。
ヴィンセントはワイングラスを軽く持ち上げ、「世話になる」と言って飲み干した。
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