エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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「我々が消滅するときは、生命維持に必要な養分が底をついたときのみだ。血を吸われた人間はまれに突然変異で我々と近しい存在になるが、所詮紛いもの。我々純血種と違い、雑種は特定のものについて耐性がない。十字架やにんにくがその例だ。そういったものが効くと貴様らが思っているのは、雑種に対してだけだ」 「つまり、餓死以外に死ぬことはないってことか」 「もう少し言葉を選べ」  餓死という言葉が気に入らなかったらしい。 「そうしたら、今、ヴィンセントは餓死寸前じゃないか」  きつく睨まれたが、晃一は続けた。 「しばらく血を飲んでいないんだろう?」 「たった百三十年程度だ」  負け惜しみにしか聞こえなかった。一度晃一を襲いかけたのだ。限界に近いのではないかと容易に察せられた。 「血にも好き嫌いがあるのか? 処女の血しか受け付けないとか」 「そんなのは一部のロリコンだけだ。生き血にもワインのように格付けがあるのだ」  ヴィンセントは人間の食に例えて言った。  生き血は人間・野生の動物・家畜・犬やネコといった愛玩動物に大別される。味も質もダントツなのが人間で、三ツ星レストラン級。次点が野性の動物で、三ツ星とまではいかない高級レストラン級。家畜は定食屋並み、犬やネコにいたってはジャンクフードだという。ヴィンセントが食べているレバ刺しや赤ワインは気休め程度のサプリメントでしかないらしい。 「健康な成人男子一人分の血を一滴残らず吸えば、百年から二百年はもつ。味も質も劣るが、動物でも定期的に摂取すれば問題ない」     
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