エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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「そうなのか。だったら、誰かの血以外は飲めないなら、動物の血を吸えばいいじゃないか」  もっともな意見である。  けれど、ヴィンセントは奇妙に顔を歪めただけだった。何となく、哀しみが滲み出るような物憂げな表情に、晃一は口を閉じた。 「…………そうだな」  ワイングラスに瞳を落とし、やるせなく呟く。 「それでも、私はあいつ以外の血は欲しくない」  紫の瞳が儚く揺らぐ。  ここにはいない誰かを偲ぶヴィンセントに、晃一は見惚れた。  どうやら自分は、この不遜で絶美な生命体に魅かれているらしい。  そう思うと、妙に心が弾んだ。  同時に、彼の心を捕えている「あいつ」が気になった。  尋ねたところでヴィンセントは答えてくれないだろう。そんな気がして、晃一は黙ったままヴィンセントを見つめ続けていた。  光月堂は古今東西の諸美術を取り扱う骨董店である。築八十年の古い民家の一階部分を改築した店内には、祖父の収集品が所狭しと並んでいる。  壁にはルネサンス期の西洋絵画と鎌倉時代の掛軸が肩を並べ、棚には尾形乾山の茶碗とエミール・ガレのグラスが同居しているといった具合に、時代も国もないに等しい。     
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