エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 一見無秩序なレイアウトであるが、晃一には祖父のこだわりが感じられた。祖父が長年かけて構築したこの空間は、不思議と心落ち着く場所でもあった。  ヴィンセントも気に入ったのか、昼間晃一が店番をする傍ら、品物を興味深く見て回っていた。  店内は相変わらず蒸し暑く、扇風機が生ぬるい空気をかき回すだけである。ウチワを扇ぎながら課題に取り掛かる晃一とは対照的に、ヴィンセントは白のブラウスに黒のロングパンツといった出で立ちで涼しい顔をしている。  人間とは異なり、環境の変化に応じて体温を無意識のうちに調整できるのだという。たかが三十度程度では何てことはないヴィンセントだが、見ている側が暑くてどうにかなりそうだったので、マントとジャケットは脱いでもらった。 「全く、人間の体は不便だな」  扇風機とウチワで暑さと格闘している晃一に、心底哀れそうに言った。 「そのおかげで文明が発達したんだ」  クーラーや暖房がその例だ。人の体では対応しきれない外界の変化に対して、快適に過ごせるようにと試行錯誤を繰り返してきた結果なのだ。 「限界があるがゆえに、それを補うものを発明してきたというわけか。我々にも限界がないわけではないが、人間ほどではない」  ノートにシャープペンを走らせていた手を止め、晃一は棚の間を歩き回るヴィンセントに尋ねた。     
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