エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 そう語るヴィンセントの後姿はどこか嬉しそうであった。恋人との久方ぶりの再会に心が弾んでいるように思え、晃一は何となく面白くなかった。 「ヴィンセント、クロードっていうのは」 「おー、弥一はいるか」  突然の来客に、晃一の問いは遮られた。晃一は仕方なく、接客に務めることにした。  客は祖父の同業者で、友人の塚原冬治だった。 祖父の不在を告げると、「何だい、晃ちゃんに店任せてフランスへ旅行たぁ、いい身分じゃねえの」と呆れた。  正確な年齢を聞いたことはないが、祖父と同い年ぐらいの骨董商である。白髪がまじった頭を短く刈り込み、日焼けした逞しい体格をしている。少し垂れた目が愛敬があるが、同時に狡猾な抜け目なさを感じさせる。  祖父とは高校時代からの付き合いで、祖父の骨董趣味は冬治の影響が大きい。というのも、冬治の家が代々続く骨董店だからだ。足しげく出入りするうちに、骨董に目覚めてしまったらしい。  晃一が冷えた麦茶を差し出すと、冬治は一気に飲み干した。 「ああ、悪いね。しかし、留守たぁ間が悪いぜ。すっかり当てが外れちまった」 「祖父に何か用事でしたか?」 「何、ちぃとばかし見てもらいてぇモンがあるんだがよ」  冬治は小脇に布で包まれた板のようなものを抱えていた。どうやらキャンバスらしい。     
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