エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 光月堂にはたびたび同業者が訪れ、骨董品の売買を行なうことがあった。買うものも売りに出されるものにも桁外れの値段がつく場合が多く、何度か交渉の場を目の当たりにした晃一は不思議でたまらなかった。古びた茶碗が一千万円で売れるのだから骨董の世界は何とも得体が知れない。  冬治が持ってきたのは一枚の絵であった。冬治とも何度か売買を行なっているが、品物は陶磁器に限られていた。冬治が陶磁器を専門としているためだが、それだけに絵を売りに来たと言うのは不思議に思えた。 「俺の店は茶道具と陶磁器専門だからよ、絵画についちゃあ弥一のほうが上だ。知り合いの画商から手に入れたんだが、妙な具合でね。見てもらいに来たのさ」  ひとくちに骨董商といっても、絵画や彫刻、工芸、陶磁器と取扱商品は多岐に渡る。職業とする限り、美術諸般に関する膨大な知識と見識が必要とされる。全てを網羅することは難しいが、専門分野に特化することでそれを強みとして営むのも一つの手段だった。  冬治も相当の目利きであるが、特に西洋絵画となると祖父のほうが一枚上手らしい。 「そうでしたか。実はいつ戻るか、オレにもわからなくて」 「そんなこったろうと思った。どうせ、二、三ヶ月は帰ってこねえだろう」  ありえない話ではないので、晃一は黙って頷くしかなかった。 「まあ、いいさ。弥一から連絡あったら伝えといてくれ。いいモンがあるんだって言えばすぐに飛んで帰ってくる……うわっ」     
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