エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 晃一には作者も作品もピンと来なかったが、ヴィンセントはわずかに目を細めた。 「晃ちゃんも、フェルメールって名前ぐらいは聞いたことあるだろ? 数年前に映画にもなった。『真珠の耳飾りの少女』って絵がモチーフになっている」  別名『青いターバンの少女』とも呼ばれている。  言われてみれば、美術の教科書で見た覚えがある。少女が巻いた青いターバンが鮮やかで印象的だった。 「この絵はいわくつきでね。一九八六年、当時所有者であったサー・アルフレッドの大邸宅から盗み出された絵画の一つだ。そのとき一緒に盗まれた中にゴヤの『ドーニャ・アントニア・サラーテの肖像』もあった」 「じゃあ、これは盗品? そんなものがどうして日本に」  もっともな疑問に、冬治はにやりと笑った。 「美術品が盗まれるのは、何も偏執な愛好家による収集が目的とは限らない。悲しいことに、名画と呼ばれる絵は金になる。それにつけこんで、盗んだ絵を闇から闇へと売り渡すのさ。そのルートは様々で、海外に流出するなんてざらにある。だから、アイルランドで盗まれたフェルメールが日本にあっても何の不思議はねえ」 「だけど、盗品に違いないでしょう。それを売買するのはまずいんじゃないですか」     
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