エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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「ところがそうでもねえ。日本の法律は器がでかくてね。盗まれてから二年以上経過したモノは、そうと知らずに購入した場合、元の持ち主に返さなくてもいいのさ。この絵も日本で正規のルートで売却されたなら、購入者は堂々と公開できる」  このように、国によって法律が異なるのも海外流出の一つの要因らしい。晃一は釈然とせず、十七世紀にオランダ・デルフトで描かれた絵を見つめた。  窓から陽光が差し込む部屋で、手紙をしたためる女と彼女に傅く召使いの女。日常のひとコマを静かに切り取った作品である。室内と女たちを照らす光が何とも柔らかく、優しい。  けれど、見続けるうちに晃一は奇妙な違和感を覚えた。どこがどうと明確には言えないが、直感的に「おかしい」と思った。上手く言葉にできないのがもどかしい。 「いい作品だ」  それまで沈黙していたヴィンセントが突如口を開いた。 「精緻な写実と巧みな光の使い方で、ありふれた光景の瞬間を見事に捉えている。それでいて、ただの風景画に没することなく独特な静謐感を漂わせている。フェルメール作品の大きな特徴だ。特に、『手紙を書く女と召使い』は目を見張るほどの美しさをたたえた作品と言えよう。確かに世紀の傑作だが、残念だな」  晃一と冬治は二人揃って目を丸くした。     
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