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画商をしていた時期があったというから、絵画に詳しくても納得がいく。ただ、ここまで饒舌に、情熱的に語るとは思ってもみなかった。だが、さらに続くヴィンセントの言葉に、二人は呆気にとられた。
「作者に伝えろ。本物には程遠い、と」
「え……本物じゃないのか?」
「兄ちゃん、いい目をしているじゃねえか」
冬治は驚愕しつつも楽しげに笑った。
「本物はとうに回収され、アイルランド国立美術館に展示されている。これは贋作だよ」
「何だ、今はそんなところにあるのか」
「知らなかったのかい。だけど、今のでさらにあんたの目を認めざるをえなくなっちまった」
一九八六年、当時史上最大規模の美術犯罪がアイルランドで起きた。世界的名画が十八点も盗まれるというラスバラ・ハウス略奪事件である。それ以前にも、この作品は盗難の憂き目に遭っている。そのときはすぐに発見されたが、二回目の盗難は七年後の一九九三年にロンドン警視庁により回収され、現在はアイルランド国立美術館に寄贈されている。
少しでもその知識があれば、真作が日本にあるわけないとすぐに判断できる。けれど、ヴィンセントはその事実を知らず、目の前の絵だけで贋作と見抜いた。真贋を見きわめる「目」は確かだと言えよう。
「実はこれは知り合いの修復師が描いたモノだ。なかなかのモンだろう」
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