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「それに、弥一にゃあ見抜かれるって踏んでいたんだ。俺が知りたかったのはモノの真贋じゃあなくて、真作として通用するレベルかってことだ」
「無理だな」
ヴィンセントが即座に否定した。
「技術を倣っただけの絵に何の価値がある。騙せるのはせいぜい、フェルメールの知名度と世間の過大な評価に目が眩んだ無知な輩ぐらいだろう」
「そういう輩がゴマンといるのさ。写しで満足してりゃあいいものを。ぼろい商売だよ。まあ、一応釘は刺しとくか」
そう言って、冬治は絵を布に包んだ。
「ところで兄ちゃん、フランスからの留学生といったな」
「……ああ」
晃一に睨まれ、ヴィンセントは渋々口裏を合わせた。
「どこぞの御曹司だったりするのかい? そのブローチ、ルネサンス期の金細工だろう? 美術館レベルの代物だぜ」
今度はヴィンセントが驚く番だった。いつの間に鑑定されていたのか。塚原冬治という男は抜け目がない。
次は本当にいいモノを持ってくるぜ、と言い残し、冬治は帰っていった。
小さな嵐が通り過ぎて行ったようで、その賑やかさに晃一は笑うしかなかった。
「驚いたな。ヴィンセントは美術にも精通しているのか」
「別に詳しくはない」
素っ気無く言い放ち、また『星屑散りて』の前に戻った。
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