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両親のように、いつか消えていなくなってしまうのではないかという恐怖が根底にあるせいだった。
だから、寂しさを覚えても再び失うよりはマシだと他人を突き放している自分は、一生独りなのだと漠然と思っていた。
しかし、ヴィンセントの出現は、そんな晃一の殻を壊していく。
もっと知りたい。
もっと近づきたい。
もっと一緒にいたい。
そんな衝動に戸惑いつつ、ヴィンセントに魅かれる心を抑えることはできなかった。
しばらく絵を眺めていたヴィンセントは不意に振り返った。紫の瞳と目が合い、心拍数が跳ね上がった。
「貴様も、感じたのだろう?」
「え、何を?」
「あの絵の不自然さに。途中から顔つきが変わった」
絵の話をしていたことを思い出し、晃一は慌てて調子を合わせた。
「でも、贋作だって気づいたわけじゃない。何かおかしいって思っただけだ」
晃一には祖父や冬治のように辞書並みの知識があるわけでも、切磋琢磨して養われた目があるわけでもない。それが何かわからないけれど、あるべきものが足りないといった程度の、些細な違和しか感じなかった。
「それが『感じる』ということだ」
そう言われたところで、わからないものはわからなかった。ヴィンセントのずば抜けた感性と晃一の曖昧な感覚とでは雲泥の差があるのだ。
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