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「この絵を見て、どう思う?」
ヴィンセントは『星屑散りて』を指した。
「いい絵だと思う。時代背景とか流派とか知らないけれど、見ていて心が安らぐ」
この絵は晃一にとってかけがえのない一枚である。祖父よりも思い入れが強いと密かに自負している。
「そうか」
ヴィンセントは満足げに笑った。
「それが作者の……クロードの魂を感じるということだ。他人の心に響く魂があるから、人間の芸術は美しい。貴様はこの絵を通して、クロードの魂を感じているのだ」
晃一は絵を見上げた。
祖父に引き取られて間もない頃に出会った絵だ。毎日、この絵ばかりを見ていた気がする。
そして現在も、仏壇の両親に手を合わせるのと同様に、絵を眺めるのが日課となっている。
「ヴィンセント。じいさんが戻ってきたら、この絵を持って行ってしまうのか?」
「そのつもりだが」
何を今さらと訝る。
祖父の帰宅は、絵だけではなくヴィンセントとの別離も意味している。そのことに気づいた晃一は、先ほどまで高揚していた気持ちが沈んでいくのを感じた。
「……それはイヤだな」
小さな呟きに、ヴィンセントは眉根をよせた。
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