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音もなく、ヴィンセントが現れた。
散歩してくると言って出たきり、戻りが遅いので様子を見に来たのだろう。
「夜の海を見ていると落ち着くんだ」
顔を海の彼方に向けたまま、晃一は言った。
「初めは暗くて怖かったけれど、段々慣れていった。じいさんのおかげだ」
ヴィンセントは何も言わずに隣に腰を下ろした。
「五歳のとき、交通事故で両親を亡くした。施設に入れられそうだったところを、じいさんに引き取られた」
その当時、祖父はすでに骨董商として商売を始めていた。妻とは離婚し、海辺の片田舎で一人で暮らしていた。
生前、父に連れられて遊びに来たことがあったが、正直好きになれなかった。いつもにこにこしている温和な祖父に懐いても、店の鬱蒼として暗さや陳列された品物が不気味に映り、子ども心に近づいてはいけない気分になったのである。
引き取られたばかりの頃も、店にはあまり顔を出さなかった。近所の子どもたちと遊ぶこともせず、家の中で閉じこもっていることが多かった。
祖父は何も言わなかった。泣きもしなければ我がまま一つ言わない寡黙な孫を静かに見守っていた。
あるとき、祖父晃一を夜の海へ散歩に連れ出した。
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