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「妻が出て行って、息子がひとり立ちして、独りには慣れていると思ったけどねえ」
幼い晃一の手を握り、ゆっくりと歩きながら祖父は言った。
「本当に独りきりになるっていうのは、寂しいなあ」
そのとき、祖父も自分のように寂しいのだと知った。祖父にしてみれば、一人息子を失ったのである。
同時に、両親は二度と帰ってこないのだと痛感した。それまではどこかあやふやに感じていた両親の死を、はっきりと突きつけられた。晃一の目から大粒の涙が零れた。
「独りきりになった者同士、これからは一緒に生きていこうな」
祖父は晃一を抱き上げ、背中をぽんぽんと叩いた。その仕草が父親とそっくりで、晃一はまた泣いた。
ようやく泣き止むと、祖父は晃一を店に連れて行った。とっておきの一枚があるのだと言って。
それが『星屑散りて』である。
祖父に抱えられてその絵を見たとき、晃一は何とも不思議な気分になった。
「じいさんに絵を見せてもらってから、オレにとっても宝になったんだ。その日から、時間さえあればずっとあの絵を眺めていた」
「『星屑散りて』をか?」
「ああ。キャンバスに瞬く星の優しい光に慰められた。凍てついていた心が温められていくようだった」
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