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「私がこれまで出会ってきた人間の中で、唯一誓いを立てた男だ。クロード以外の血は一生求めないとな」
それは荘厳な愛の告白にも聞こえ、晃一はじっと耳を傾けた。
八月に入り、夏の暑さは日を追うごとに増していく。朝早くから、追い立てるようなセミの鳴き声が辺りに響く。
晃一は庭に出て、菜園で栽培したきゅうりを採っていた。他にもトマトやナスが瑞々しく生っている。食べごろかどうか見定めていると、ヴィンセントが声をかけてきた。
「朝食の材料か?」
「ああ」
ヴィンセントは縁側にある籐の椅子に腰掛けていた。庭に茂った青葉の影がヴィンセントの白い肌に映り、幾分青褪めて見える。無意識のうちに、視線がヴィンセントの唇を辿り、晃一は慌てて目を逸らした。
ヴィンセントが光月堂に来て、十日以上経っていた。けれど、その程度の日の浅さを感じさせないほど、晃一には特別な存在になっていた。
昨晩、夜の海辺でヴィンセントがクロードについて語ってくれたことも大きい。
「クロードのことを話すのは、コーイチが初めてだ」
そう前置きされて、単純に嬉しかった。ヴィンセントに、少しだけ近づいたような気さえした。
赤く熟れたトマトをもぎ取っていると、
「人間の生活は創意工夫に満ち溢れている」
唐突に、ヴィンセントがそんなことを言い出した。
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