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「食事一つにしても、血を吸うだけで事足りる我々と違って手を加えなければならない。難儀なことだ」
言われてみれば、『料理をする』という行為は人間特有の行為だ。ヴィンセントのような種族は別にしても、動物が食事のためにわざわざ『料理をする』なんて話は聞いたことがない。
「そのままで食べられるものもあるが、手を加えたほうが美味いからじゃないか」
二人暮しのため、必然的に料理を覚えた晃一である。簡単な家庭料理なら大方作ることができる。ヴィンセントに言われるまで、特に意識したことはなかった。食べたいから作るだけのことだ。
「その欲求が何かを作り出す源となるのだな。人間が作り出したもので、最も賞賛すべきものは何だと思う?」
妙な質問に面食らう。
「芸術とワインだ」
ヴィンセントは晃一の答えを待たず、きっぱりと言い放った。
「……それはつまり、さっさと朝食の用意をしろということか」
「それ以外、何がある」
遠まわしに朝食をせがまれていたらしい。晃一は苦笑し、野菜がてんこ盛りになった籠を持って家に上がった。
そして、ヴィンセントが再び口を開く前に、都築家の食卓には朝食が並べられた。炊き立てのご飯に味噌汁、採れたての野菜サラダと目玉焼き、それにレバ刺しと赤ワインである。
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