エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 定番のセットのほかに、貧血に効果抜群の小松菜やプルーンを薦めてみたが、すげなく断られた。 「人間の貧血と一緒にするな。野菜など咽喉を潤す水程度にもならん」のだそうだ。  では、レバ刺しと赤ワインだけで足りるかと言えばそんなことは決してない。ヴィンセントの白い顔がますます生気を失っていくようで、晃一は気が気でなかった。  しかし、クロード以外の血は飲まないと固く誓っている以上、人間の血を飲もうとはしないだろう。野性の動物など、片田舎とはいえそうそういるはずもなく、家畜やペットに手を出したら大騒ぎになりかねない。ヴィンセントの食事事情も難儀である。  かと言って、クロードの血を飲めばいいかというと、さらに話は難しくなる。何せ、クロード・ダヴィッドは百年以上も前に亡くなっているのだ。死者の生き血を飲むなど不可能な話だ。  そうとわかってクロードの血に固執する理由も、ヴィンセントは教えてくれた。それを聞いたあとでは尚更、他人の血を薦めるわけにはいかなかった。  正直、以前からヴィンセントになら血を吸われてもいいと晃一は思っていた。ヴィンセントさえ望むならいつだって血を与えようと、昨夜さらに心に決めた。  優雅な手つきでレバ刺しを口に運ぶヴィンセントに、晃一は思い切って言った。     
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