エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 ヴィンセントの美貌は魅惑的で、凄艶な笑みを浮かべるだけで誰もが陶酔した。彼の虜となったエサは大勢いたので、少しずつ吸っていけば充分足りた。一人の体内から全ての血を吸う必要はなかった。  己の身を厭わしく思う一方、ヴィンセントは人間の手によって創り出される芸術に心魅かれた。 「昼間、人間が真に芸術と呼ぶものには魂があると言っただろう。人間の一生は我々に比べて儚く、短く、有限だ。それゆえに、魂が込められたものは光る。私は有限の世界で生きる人間を哀れに思いながら、そのひたむきさが眩しくて仕方なかった。クロードもそんな人間の一人だった」  美術学校を卒業後、画業だけでは生活できず、クロードは絵の修復や飲食店で働きながら収入を得ていた。しかし、すぐに画材につぎ込んでしまうので年がら年中貧乏だった。それでも、クロードはいつも逞しく、陽気だった。逆境を逆境とも思わず、絵を描くことが生きる喜びと言わんばかりにキャンバスに向かっていた。 「クロードと共に過ごしたのは一年にも満たなかった。冬のある日、病に倒れ、春の訪れを待たずに死んだ。『星屑散りて』があいつの最後の作品となった」  波音がひときわ大きく鳴った。     
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