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「おかしな観光客だと思った。店に入るなりあの絵をくれと言ってきた。何度も美しいと連呼し、土下座までする始末だった。その熱の入れようは半端ではなかった」
そして、こうも言ったのだという。
あの絵には、とても深い愛が込められている、と。
「あれは星空を描いた絵だ。私はずっとそう思っていた。けれど、ヤイチは言った。あの絵は誰かに向かって語っている、清らかで、慈悲深くて、強烈な思慕の情を感じると。ヤイチに言われるまで、私は気付かなかった。クロードの本当の想いに。それを知って、私はあいつ以外の血は求めないと誓った」
「本当の想い?」
「生前、クロードはあの絵を描きながら言っていた。私といつまでも共に在りたい、と」
『そう願うのは、時間が無限じゃないと知っているから言えるんだ。オレもいつかはお前と離れちまう。でも、それでも、お前との絆は確かだと信じたい……先に逝く者の傲慢かもしれないけど』
ヴィンセントはクロードの言葉を思い出しているようだった。
その横顔が、とても綺麗で切なくなる。
クロードはヴィンセントが好きで、ヴィンセントもまたクロードのことが好きなのだろう。
二人の関係など、聞くだけ野暮だ。
晃一はちくりとする胸の痛みをやり過ごして先を促した。
「大事な絵だったんだろう? どうしてじいさんに貸したんだ?」
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