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「独りになって、眠ろうと思ったのだ。クロードが死んでから、誰の血を吸う気にもなれなかった。さすがに体を休めなければと身辺整理のついでに貸した。売る気はとうに失せていた。それでもヤイチなら大切にするはずだからな」
栄養失調で気絶寸前だったというところだろうか。
「最後に飲んだのはいつだ?」
「クロードが死んだときだ。身寄りもいないし、お前に残せるものと言ったら絵と血しかないと言われてな。初めは断ったが、クロードも譲らなかった。結局私が折れ、息を引き取る直前、クロードの血を啜った。私が殺したようなものだ」
「治らない病気だったのか?」
「当時の医学では治る見込みはなかった。現在なら治ったかもしれないがな」
ひどい男だ、とヴィンセントは呟いた。
「私の血を飲めば、確実に生き長らえた。それなのに、私の血は拒んでおきながら、自分の血を飲めと言ったのだ」
ヴィンセントといつまでも共に在りたいと願いながら、自らそれを断ち切った男の心情を、晃一は複雑な気持ちで受け止めた。
多分、自分もそうするかもしれない。
ずっと一緒にいたいと思う。
一方で、ヴィンセントが望むなら、血をあげたいと思う。
では、どちらをより強く願うかと問われれば、晃一は後者を選ぶだろう。自分の命が惜しくないというわけではないが、ヴィンセントのために何かせずにはいられないのだ。
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