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慌てて体ごと離れた。当のヴィンセントは何事もなかったように平然としている。晃一はますます居たたまれなくなり、その場から逃げ出した。
家に戻り、自室にこもっても、動悸はまだ鳴り止まなかった。
感情のまま我を忘れるなど、初めての経験である。そんな自分に驚きつつ、自分もまたクロードと同じようにヴィンセントが好きなのだと悟った。
結局、その夜は一睡もできなかった。
朝、どんな顔で会ったらいいのだろうと内心どぎまぎしながらきゅうりを採っていたのに、ヴィンセントはいたって普段どおりだった。
いつもの時間に、いつもの食卓で、何気ない話をしながら朝食をとった。
ヴィンセントに、「血をあげる」と言ったら呆れられた。クロードと張り合うわけではなく、偽らざる本心である。
昨夜のキスのことは、一切話題に上がらなかった。意識していた自分が滑稽に思えてくるほど普通すぎて、夢だったのかと錯覚しかけたくらいである。
あるいは、唇がぶつかり合っただけの事故と思われているのかもしれない。
そうだとすると、舞い上がったテンションが一気に下降してしまう。
そんなことを考えては幾度となくため息をつき、晃一は近所の商店街へ買い物に向かっていた。ヴィンセントは店で留守番をしている。
いつものように店を開け、いつものように買い物へ送り出された。
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