エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 ただ違うのは、恋の自覚をしてしまった自分だけである。  キスらしきものをしてしまったとはいえ、告白など今の自分にはハードルが高い。  遅まきながら、晃一にとってヴィンセントが初恋である。どうしたらいいか戸惑うばかりか、クロードとの関係を聞かされた後では分が悪すぎる。  クロードを想うゆえにクロード以外の血は飲まないと誓いを立てるほどなのだ。  クロードの壁は分厚く、高い。  そして、晃一もまたクロードには絵を通して救われた恩があるし、ヴィンセントに関して共感する部分もある。ヴィンセントに想われて羨ましく思いこそすれ、恋敵と憎むことはできなかった。  晃一は足を止め、また深いため息をついた。 「あら、晃ちゃん。どうしたの、浮かない顔をして」  ちょうど行き慣れた肉屋の前だった。昔から顔なじみのおばさんが丸っこい顔を突き出し、「何かあったの?」と尋ねた。晃一は首を振り、「何でもないです」と答えた。 「はい、いつものね」  おばさんは晃一が頼む前にレバ刺しを包んでくれた。二日おきに買いに来ているので慣れたものである。 「金髪のお兄ちゃん、本当にレバ刺しが大好物なんだねえ。フランス人は皆そうなのかしら」     
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