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ヴィンセントを連れて行ったら、ちょっとした騒ぎになるかもしれない。そんな些細な懸念はあっても、一緒に行くのも悪くないと思った。
毎年、夏は祖父と打ち上げ花火を見て過ごす程度だったが、今年はその祖父がいない。代わりにヴィンセントがいる。
祖父以外の誰かと過ごす初めての夏に、少し浮かれた。
恋をすると、こうも心の振れ幅が変わるらしい。
他人と距離を置いていた自分が嘘のようである。失ったら怖いという感覚がなくなったわけではないが、恋の高揚感がその恐怖を上回っていた。
ヴィンセントの待つ家に早く帰ろうと、晃一は歩く速度を速めた。
家の前まで来ると、一台の車が停まっていた。黒塗りのベンツという、この場所に非常に似つかわしくない高級車に、来客だろうかと思った。
骨董品を所有することがステータスだと言わんばかりに大金を積んで買い漁る成金趣味は、祖父が最も嫌う客層だ。そんな胡散臭さが漂うベンツの横を通り過ぎ、晃一は急いで店に入った。
店内にはヴィンセントと三人の男がいた。
三人のうち、特に真ん中に立つ長身の男は独特な威圧感を放っていた。上質なスーツを身にまとい、精悍な顔立ちをしている。鋭い目元には十字の裂傷痕があり、凄みをきかせていた。
その後ろに控えるように、柄の悪いチンピラが二人、嫌な笑みを浮かべて立っている。
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