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東郷は口調や態度は丁寧なものの、他の二人とは圧倒的に格が違っていた。顔は笑っていても、目が笑っていない。気さくなフリをしつつも、獰猛な牙をちらつかせることも忘れていない。
「祖父は留守にしていて不在です。お帰りください」
チンピラ二人は単にいきがっているだけで、怖くも何ともない。晃一は東郷に気圧されまいと拳を握りしめた。
「いつ戻る?」
「知りません」
「てめぇ、孫のくせに知らねえってことねえだろうよ。見え透いたウソ、ついてんじゃねえよ」
小太りのチンピラが口を挟んだ。
「黙れ。オレが坊主と話してんだ」
東郷が睨みをきかせると、二人は縮み上がった。「すんませんッ」と痩せぎすが小太りの頭を引っぱたいた。
「大体でいい。一週間後か一ヵ月後か」
「……祖父に何させる気ですか?」
尚も食い下がる東郷に、晃一は不審そうに尋ねた。
「何、大したことじゃない。絵の鑑定をしてもらいたいだけだ」
「絵の?」
「そうだ。言っておくが、オレの本業は画廊のオーナーだ。ヤクザはこいつらだけ」
俄かには信じがたい。東郷という男のほうがよほどヤクザにふさわしく見える。
「信じてないな? 早い話が、こいつらの組にオレの上客がいる。そいつに絵を売りたいが、どういうわけか同じ絵が二枚ある。その真贋を鑑定してもらいたいってわけだ」
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