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晃一には理解できなかったが、東郷は何かを察したようであった。
「さすが名の通った店だけのことはある、ということか」
「話を進めよう。でないと、この者の腕をへし折ってしまいそうだ」
痩せぎすが情けない声を上げた。東郷は意に介さなかった。
「問題の絵は、あんたにとっても非常に興味深い一枚のはずだ。フェルメール作『合奏』の真贋鑑定と言ったらどうする?」
「何だと?」
ヴィンセントの顔つきが変わった。紫の瞳が驚愕に見開かれる。
「一九九〇年、アメリカのガードナー美術館で美術品窃盗事件が起きた。盗まれた品は全部で十一点。被害総額は当時で三億ドル。十年以上経った今もその行方はわからないでいる。その中の一つがフェルメールの『合奏』だ」
この事件で、フェルメールを始めレンブラント、マネといった画家たちの絵画や素描が被害に遭った。捜査にあたったFBIにとって、これらの美術品は究極の捜査対象となった。同時に、コレクターやバイヤーといった美術品市場に携わる人々にとって幻の名作、もしくは巨額の富をもたらす高額商品ともなった。
盗まれたという事実が、時として正真正銘の名画である証となり、さらに価値が上がるのだ。
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