71人が本棚に入れています
本棚に追加
特にフェルメールは数十点しか作品が存在しない。寡作であればあるほど、その一点の価値が高くなる。
ただし、それが真作であればの話だ。
「今、オレの手元にはニ枚のフェルメールがある。どっちも正規のルートで流れてきたモンじゃない……元々盗品だしな。どちらがホンモノでどちらがニセモノか、はたまた両方ニセモノか。世界的名画なんざ、実際に本人が描いたより多く出回っているんだからな」
「もし、どちらかが真作だったら?」
「オレの上客に売る。金額によっちゃあ、あんたにだって交渉の余地はある。ゲティだって黙っちゃいないだろう。何たって、あのフェルメールの『合奏』だ」
東郷はやけにフェルメールであることを強調した。その名前を、晃一はつい先日耳にしたばかりである。
冬治が持ってきた絵もフェルメール作だった。実際は贋作だったが。
「両方とも、贋作だったら?」
「そのときはそのときさ。儲けのない商売をするつもりはない」
裏社会に生きる男のあくどい笑みを覗かせ、不敵に答えた。
どちらに転んでも、東郷は損をしたとは思わない。むしろ、逆手にとって上手く利用するつもりなのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!