エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 特にフェルメールは数十点しか作品が存在しない。寡作であればあるほど、その一点の価値が高くなる。  ただし、それが真作であればの話だ。 「今、オレの手元にはニ枚のフェルメールがある。どっちも正規のルートで流れてきたモンじゃない……元々盗品だしな。どちらがホンモノでどちらがニセモノか、はたまた両方ニセモノか。世界的名画なんざ、実際に本人が描いたより多く出回っているんだからな」 「もし、どちらかが真作だったら?」 「オレの上客に売る。金額によっちゃあ、あんたにだって交渉の余地はある。ゲティだって黙っちゃいないだろう。何たって、あのフェルメールの『合奏』だ」  東郷はやけにフェルメールであることを強調した。その名前を、晃一はつい先日耳にしたばかりである。  冬治が持ってきた絵もフェルメール作だった。実際は贋作だったが。 「両方とも、贋作だったら?」 「そのときはそのときさ。儲けのない商売をするつもりはない」  裏社会に生きる男のあくどい笑みを覗かせ、不敵に答えた。  どちらに転んでも、東郷は損をしたとは思わない。むしろ、逆手にとって上手く利用するつもりなのだろう。     
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