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弥一やヴィンセントのような第三者からのお墨付きがあれば真贋の信憑性は増すし、箔がつく。たとえ贋作でも、東郷の手にかかれば金を生む卵となるのだろう。
そんな奴の仕事など、まっぴらゴメンだと晃一ははねつけたかった。けれど、ヴィンセントは淡々とした口調で、「いつだ?」と尋ねた。
「近いうちに連絡する」
ヴィンセントは頷き、無造作に痩せぎすを床に放り出した。
「そういえば、兄さんの名前聞いていなかったな」
ヴィンセントが名乗ると、
「そうか。いい仕事ができそうだ」
そう言って、東郷たちは店から出て行こうとした。
「邪魔したな、坊主」
東郷はぐりぐりと晃一の頭を撫でた。その仕草にムッとした。客のあしらい一つできないガキだと揶揄されたようで悔しい。晃一はその後姿を睨みつけた。
そのとき、痩せぎすの手に店の商品が掴まれていることに気づいた。
近くの棚に陳列されていた志野の茶碗である。和物の最高峰と称される志野は、桃山時代のものであれば五千万より下の値段はつかない。
「おい、待てよ」
晃一が呼び止めると、
「何だよ」
痩せぎすがニヤニヤしながら振り返った。
「手に持っているものを置いていけ」
「ああ? コレかぁ?」
ボールでも弄ぶように、痩せぎすは手の上で放ってみせた。
「じいさんのものに手を出すなッ!」
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