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「うるせーな。ちょっと手に取ったまま置き忘れただけだろぉ?」
明らかに、先ほどの意趣返しだった。ヴィンセントに掴まれたほうの手で茶碗を持っている。
「ほら、返すよ」
そう言って差し出して……床に落とした。
ガシャン、と茶碗が割れる音が響き渡る。
晃一の目の前で、祖父の宝物があるべき姿を失った。
「悪い悪い。手に力入らなくてよ。さっき、すげぇバカ力で掴まれたせいで……ぐぇっ」
痩せぎすの体が勢いよく吹っ飛んだ。晃一に殴られ、そのまま店の外まで転がった。
「てめっ……」
起き上がろうとする痩せぎすに馬乗りになり、尚も殴りつける。痩せぎすの鼻から血が出ようが、自分の拳が痛みで赤くなろうが、止まらなかった。
祖父の宝物を壊されたのだ。
美術的価値も歴史的価値も、ましてや金額など問題ではない。
祖父が心から大切にしていたのだ。
「やめろ、コーイチ!」
背後からヴィンセントが羽交い絞めにした。暴れる晃一の頬を、東郷が平手打ちする。
「落ち着け、坊主」
ヴィンセントと東郷の二人がかりで晃一を痩せぎすから引き離すと、東郷は力任せに痩せぎすの腹を蹴った。
「てめぇもくだらない真似すんじゃねぇ」
ひやりとする、ドスのきいた声だった。
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