エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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「東郷か? 確かに土下座するなんて予想外だった。そんなことする奴には見えなかったからな」  二人は店を抜けて、そのまま居間に向かった。ヴィンセントは縁側の籐の椅子に腰掛け、晃一は続きになっている台所で食材を冷蔵庫に入れ始めた。 「それもそうだが……コーイチは本気で怒ると手が出るのだな」 「……思わずカッとなって、頭が真っ白になったんだ」  痩せぎすを殴ったのは反射的だった。これまでケンカらしいケンカをしたことがなければ、腕っ節が強いわけでもない。  東郷にぶたれるまで、本当に我を失っていた。 「コーイチは滅多に感情を出さないからクールな奴だと思っていたが、意外と情熱的なのだな」 「情熱的っていうのか、それ」  晃一は苦笑した。 「ヤイチのモノが傷つけられて、我慢ならなかったのだろう」 「ああ」  手早く冷蔵庫にしまうと、供花を水の入ったバケツに入れた。瑞々しさを取り戻してから仏壇に飾るつもりだ。  それから、肉屋のおばさんからもらったスイカに包丁を入れた。半分に割れたスイカはとても赤く、種がぎっしりと詰まっていた。 「じいさんが大切にしているものを粗末に扱われるのはイヤなんだ」  適当な大きさに切り、皿にのせる。一度に全部食べるのはさすがに無理だったので、半分は冷蔵庫にしまった。     
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