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男は呻いた。正気の様ではない。
晃一に飛び掛り、床に押し倒す。手で首を押さえられ、息ができなくなる。無我夢中でもがいたが、男の手を退けることはできなかった。
男の爪が首筋に食い込み、鋭い痛みが走った。声を上げようにも、虚しく息が漏れるだけである。目の前が霞みかかっていく寸前、男の手が離れた。
大量の空気が肺に入り、盛大に咳き込む。涙まじりに男を見上げると、男は晃一の首を絞めた手をもう一方の手で抑えていた。
「くっ…………だめだ……欲しては、ならない………………以外の、血は」
ぶるぶると全身を震わせ、男は苦悶に顔を歪ませた。赤く染まった瞳が紫の色になる。かと思うと、再び赤くなった。
「……血?」
呆然としていた晃一は、自分の首に手をやった。男の爪が食い込んだ箇所から、わずかに出血している。
男は血を求めているのだろうか。
伝説の吸血鬼のように。
そんなバカな、と否定するより早く、男が動いた。
思わず肩を竦める。が、男は晃一ではなく、自分の腕に噛み付いた。
「何をっ……」
呆気にとられる晃一の眼前で、男は自分の血を吸った。
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