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「オレには価値とか金額とかわからないけれど、じいさんが大切にしているものはそれだけで価値があるんだ。だから、オレにとっても宝なんだ」
「コーイチは本当にヤイチ思いだな」
ヴィンセントの言葉に、晃一は照れたように小さく呟いた。
「……たった一人きりの、家族だから」
居間のテーブルにスイカをのせた大皿と塩を置く。
「どうしたのだ、そんなに」
「肉屋のおばさんにもらった。ヴィンセントと一緒に食べなって。食べるか?」
血になりそうもない食材を、ヴィンセントが好んで食べるとは到底思えない。どうせ食べないと言うに決まっているだろうが、一応聞いてみた。
するとヴィンセントはしばらく考え、「いただこう」と言った。
「え……本当に?」
「何故驚く。お前が言ったのだろう」
「だって、いつもレバ刺しとワインしか食べないじゃないか。他の食材薦めたって、何の足しにもならないって」
「……たまにはいいだろう。血の代わりにならなくても、咽喉を潤すぐらい」
ヴィンセントはむくれた顔で畳に座った。機嫌を損ねたのではなく、柄にもないことを言った自分に照れているようであった。その証拠に、耳がほんのり赤い。晃一は小さく笑った。
「何がおかしい」
「何でもない。塩をかけると美味いぞ」
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