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「アメリカのゲティ美術館のことだ。石油王ゲティが金にモノを言わせて美術品を数多く集めた成金美術館と言ってもいい。金の有り余っている美術館の関係者だと思わせておけば、金の匂いに敏感な奴らは必ず喰い付いてくる」
「あいつ、信じたのか?」
「さあな。その真偽もあの男にとってはどうでもよいのだろう。私が真にゲティの代理人であればゲティに吹っかけるだろうし、そうでなかったら別の方法を考えるはずだ。呆れるほどしたたかそうな男だったからな」
ヴィンセントはスイカを食べる手を止めた。すかさずウェットティッシュを渡す。
「どうだった? スイカは」
指を拭きながら、ヴィンセントは顔をしかめた。
「……腹に池ができたようだ」
「水腹だな」
食べ過ぎだ、と晃一は笑った。
「うるさい……何だ、笑えるではないか」
「え?」
「お前がそうやって声を立てて笑うところ、初めて見た」
「そうか?」
感情表現が控えめ、というか乏しい自覚はある。泣くことも怒ることも少なく、そういう意味では手のかからない子どもだった。同時に、笑顔の少ない子どもでもあった。両親の死をきっかけに、感情をどこかに置き忘れたようだった。
それも一時で、祖父に支えられ、ゆっくりと感情を取り戻していった。そういう過去があるからかもしれないが、あまり表に出ないのは性格ゆえだと思っている。
「そうだとしたら、ヴィンセントのせいだ」
「私か?」
これは間違いなく断言できる。
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