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「でも、オレが意地張らなければこんなことにはならなかったんじゃないかって思うと、じいさんに申し訳なくて」
「東郷清輝か。確かに良くねえ噂ばかり聞くな」
冬治は箱の蓋をしめ、再び紐をかけた。
東郷の名は、他の美術商の間でも悪名高かった。
「金持ち相手に絵画を売りつけるやり手の画商だ。だが、裏じゃあ贋作や盗品にも手を出しているらしい。知識ばかり無駄にあって肝心の見る目がねえ連中はいいカモだぜ。そこにつけ込んで贋作を売りさばいているって話だ」
「ヤクザじゃないんですか?」
「奴自身は一応堅気だけどな。一雄会系黒田組の幹部が奴の上客の一人で、さらに黒田組が裏で手を引いて贋作や盗品を東郷に回しているらしい。俺だって関わりたくねえ連中だな」
「だけど、結局ヴィンセントが代わりに鑑定するって言い出したんです。ゲティから来たとか何とか言って」
「あの目利きの兄ちゃんか。まあ、あの兄ちゃんなら大丈夫だと思うが、ゲティたぁまた大ぼら吹いたねえ」
冬治は愉快そうに笑った。
「それで奴も信用したわけじゃねえだろう。だけど、それをあえて承知で兄ちゃんに依頼したんだとしたら、裏があってもおかしくねえな」
「美術品て、そんなに儲かるんですか?」
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