エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 日々消費される日用品と違い、美術品は生産のきかない希少性の高い品である。それゆえに、知名度の高い名品であればあるほど高値がつく。  そうは言うものの、晃一は即座にヤクザと美術品が結びつかなかった。 「麻薬、武器についで違法取引されるモノって何だと思う?」  晃一は首を傾げた。 「美術品さ。嘆かわしいことにね」  胸ポケットからタバコを取り出し、冬治はおもむろに火をつけた。 「前に見せた絵、あっただろう。フェルメールの『手紙を書く女と召使い』って作品。あの絵が二回目に盗まれたとき、下手人はアイルランドの大物ギャングだった。そいつはその絵が好きだったわけでも格別詳しかったわけでもねえ。だけど、高値で売れる絵であることはわかっていた。奴は闇市場で売って得た巨額の金を元手に、麻薬ビジネスを展開しようと企んでいたらしい。実際、そのとき同時に盗まれた別の絵は、ヘロインの手付金として使われそうになったところを警察によって回収されている。そうやって、美術品が金の代替品として通用する以上、闇取引が横行するのは不思議じゃねえ」     
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