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元より乗り気でない話だったが、さらに不快な気分になった。晃一も、アイルランドのギャングと同様祖父やヴィンセントほど美術品に対して愛着も興味もあるわけではない。それでも、いいものはいいと感じるし、そうした品を取引のために悪用されるのは腑に落ちない。
もっと言えば、そんな連中にヴィンセントが関わることが一番イヤだった。しかし、当のヴィンセントは鑑定を心待ちにしている様子であった。
「本当はヴィンセントにも関わってほしくないんです。でも、その絵が気になっているみたいで」
「誰の、何の絵だい」
「フェルメールの『合奏』です」
冬治は目を丸くし、くわえたタバコを落としかけた。
「そいつは兄ちゃんでなくても目の色変わるわな。真作だったら世紀の大発見だ」
「それが、二枚あるんです。東郷はその真贋の鑑定をしてほしいと」
「ふつうに考えて、二枚とも贋作である可能性が高いな。だが、東郷だってそれなりの目利きと評判高い……だから騙される奴もいるんだが。その東郷でも判断つかねえってんなら、もしかするともしかするかもしれねえ」
吸いかけのタバコをもみ消し、冬治は新しく火をつけて深く吸い込んだ。
「その絵も、だいぶ前に美術館から盗まれたんですよね」
「調べたのかい?」
「東郷から聞かされて、その後自分で」
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