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「真作が二枚なんてありえない。少なくとも一枚は贋作だろう。その贋作、破いちまってほしい」
そう頼み込む冬治の目は険しかった。
金曜日。黒塗りのベンツに乗り、東郷が再び姿を現した。その日は一人だけで、あのチンピラたちはいなかった。
「迎えを寄こすのではなかったのか?」
ヴィンセントの問いに、「坊主に用があるんだ」と言った。
玄関先で見送ろうとしていた晃一は驚いて東郷を見た。
「お前も来い、坊主」
「どうして」
鑑定するのはヴィンセントだ。自分が行ったところで何の役にも立たない。
「この前のワビだ。さっさと乗れ」
東郷に急き立てられ、晃一は慌ててベンツの後部座席に乗り込んだ。その隣にヴィンセントが座る。
行き先を告げず、車は静かに走り出した。初めて乗る高級車に、晃一は居心地が悪くて仕方なかった。一方、ヴィンセントは優雅に足を組み、ヨーロッパ貴族さながら憎らしいほど様になっていた。白皙の横顔は物思いに沈んでいるようで、長い睫毛が目元に影を落としている。
美人は三日で飽きるというが、好きな人ならばそんなことはありえない。四六時中見ていても足りないぐらいだ。
「どうかしたのか?」
ヴィンセントが晃一のほうを向いた。
「あ、いや……何でもない」
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