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ずっと見ていたいと思うのに、いざ目が合うと逸らしてしまう。
キスしても、告白して振られても、相変わらずヴィンセントにはドキドキさせられる。
気持ちを伝えることさえ叶わないのだと悟ったあの日から、何度も諦めようと思った。けれど、心は反比例して想いが募っていく。
無意識のうちにため息をついて、ヴィンセントに心配される始末だった。そのたびに本心を飲み込み、「夏バテだ」と言った。哀しい気分になっても、気付かないフリをしてやり過ごした。
「そうか。だが、顔色が悪い」
尚も覗き込もうとするヴィンセントに、晃一は反射的に身を引いた。
「だ、大丈夫だから」
ヴィンセントは訝るように眉を寄せたが、何も言わずに元の姿勢に戻った。
窓の外に目を移すと、車は高速道路を走っていた。周りの車をすいすいと追い抜いていく。
行き先ぐらい教えてくれてもいいのに、東郷は一言も口をきかなかった。どこに連れて行かれるのか気になったが、聞いたところで今さら引き返せるわけではないので黙っていた。
「今朝、肉屋の女主人が来ただろう」
唐突に、ヴィンセントが口を開いた。
「え、ああ」
朝早く、近くに寄ったついでだと肉屋のおばさんが訪れた。いつものレバ刺しと採れたての桃を持って。
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