エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

71/114

71人が本棚に入れています
本棚に追加
/114ページ
 ずっと見ていたいと思うのに、いざ目が合うと逸らしてしまう。  キスしても、告白して振られても、相変わらずヴィンセントにはドキドキさせられる。  気持ちを伝えることさえ叶わないのだと悟ったあの日から、何度も諦めようと思った。けれど、心は反比例して想いが募っていく。  無意識のうちにため息をついて、ヴィンセントに心配される始末だった。そのたびに本心を飲み込み、「夏バテだ」と言った。哀しい気分になっても、気付かないフリをしてやり過ごした。 「そうか。だが、顔色が悪い」  尚も覗き込もうとするヴィンセントに、晃一は反射的に身を引いた。 「だ、大丈夫だから」  ヴィンセントは訝るように眉を寄せたが、何も言わずに元の姿勢に戻った。  窓の外に目を移すと、車は高速道路を走っていた。周りの車をすいすいと追い抜いていく。  行き先ぐらい教えてくれてもいいのに、東郷は一言も口をきかなかった。どこに連れて行かれるのか気になったが、聞いたところで今さら引き返せるわけではないので黙っていた。 「今朝、肉屋の女主人が来ただろう」  唐突に、ヴィンセントが口を開いた。 「え、ああ」  朝早く、近くに寄ったついでだと肉屋のおばさんが訪れた。いつものレバ刺しと採れたての桃を持って。     
/114ページ

最初のコメントを投稿しよう!

71人が本棚に入れています
本棚に追加