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「夏祭りがあると聞いたのだが」
「ああ。明後日の夜だったかな」
チラシをもらい、それきり忘れていた。東郷たちの来訪や鑑定の話でそれどころではなくなっていた。ヴィンセントと行きたいと思ったが、このタイミングで誘うのは間が悪い気がして躊躇われた。
「浴衣を貸すと言われた」
「そんな話をしていたのか」
レバ刺しの代金を取りに奥へ引っ込んだとき、肉屋のおばさんと夏祭りの話をしていたらしい。
「二人分あるから、一緒にどうかと」
「そうか。あとでお礼言っておかないとな」
「では、行くのか?」
「そうだな。いつもはじいさんと家の二階から花火見るだけだったし、ふらっと行ってみるのもいいな」
「……コーイチ」
ヴィンセントは何故か不満そうだった。
「どうかしたのか?」
「全く、鈍いにも程がある。人が折角……」
「何の話だ?」
怒りの理由がわからずに首を傾げると、
「お前が行くなら私も行く」
有無を言わさない強い調子で言った。
「……そうか。じゃあ、行こう」
夏祭りとか浴衣とか、日本文化に興味を持ち始めたのだろうか。
誘われているとは思いもよらず、的外れなことを考えながら晃一は頷いた。
高速道路を降りると、車は閑静な高級住宅街に入っていた。
「ここだ」
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