エトワル~夏の夜空に煌めく星は~

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 東郷に促され、降りた先は大きな屋敷の前だった。周囲はどこも広い敷地と立派な邸宅を構えているが、目の前の屋敷はずば抜けていた。  周囲は長く続く漆喰の塀に囲まれ、正面には風格のある木造の門構えが建つ。門をくぐり、石畳の道を行くと、洒落た洋館が現れた。その奥には日本家屋が連なり、和洋折衷の造りをしていた。  東郷は勝手知ったる様子で二人を敷地内に案内した。 「てっきり、あんたのギャラリーでやるものだと思っていた」  晃一が言うと、 「ワビ入れるっつっただろ? 坊主の話をしたらえらく気に入ったようでな。直々に会いたいって言うから連れて来た」 「あんたの上客って」 「黒田組の組長」  こともなげに言う東郷に、言葉を失う晃一。  一雄会系黒田組がどんな組か、その組長がどんな人物か知っているわけではない。けれど、ヤクザと無縁の世界で生きている晃一にしてみれば、組長と聞いただけで怖気づいてしまう。  かと言って、引き返せないのは百も承知と車の中で腹をくくったばかりである。なるようになれ、と東郷の後を追った。  松や桜、ツツジといった緑に囲まれ、鯉が泳ぐ池のある広い庭を抜けると、土蔵が現れた。 「元々あった土蔵をコレクションの観賞用に改築したらしい」     
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