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中に入ると、東郷の言葉通り、入り口の向かいにあたる壁が壊され、日光が入りやすいようにガラス張りになっていた。ちょっとしたサンルームである。
室内には所狭しと絵や焼き物が飾られていた。組長自ら出向いて収集したコレクションだという。
部屋の中央には、アンティーク調の椅子に腰掛けた品のいい老人が座っていた。六十代後半から七十代前半にかけてといったところで、豊かな銀髪を後ろに丁寧に撫でつけている。
「よくおいでなすった。儂は黒田竜三郎という者だ」
穏やかな口調ではあるが、一瞬にして場の空気が張り詰めた。他の者を平伏させる強烈な威圧感を漂わせている。晃一は体が緊張するのを禁じえなかった。
「君が、光月堂の主人の孫か?」
黒田は晃一に視線を合わせた。
「はい」
「先日はうちの若い者が迷惑をかけたそうだな。すまないことをした」
「その件は、もう」
「確か、桃山の志野だったかな」
「……はい」
「そうか。儂もぜひ、一目見たかった」
そう言ってしばし、黒田は目を閉じた。見たことのない逸品に思いを馳せているかのようである。
「今、その茶碗はどうしている?」
「知り合いに直してもらっています」
「だが、以前のままというわけにはいかんだろう。どれほど腕のよい職人でも、壊れたという事実は消せない」
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