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老人の言葉は静かで、絶大だった。それは骨董品を愛する祖父と通ずるものがあり、妙な親近感を覚えた。黒田という老人も、ヤクザの組長という肩書きはあるけれど、結局祖父と同類なのだ。根っからの骨董好きに違いない。
「さて、詫びと言ってはなんだが、ここにある儂のコレクションの中から一つ好きな物を選びなさい。どれも値の張る品ばかりだ。君のおじいさんも気に入ることだろう」
そう言われて、晃一は戸惑ってしまった。いくらいい品だと言われても、晃一にはその価値がわからない。それに、祖父が本当に気に入るとは限らない。
しばらく考えた末、晃一は「いりません」と答えた。
「ここの品は、壊れた茶碗より価値が劣ると言いたいのかね」
「そうじゃありません。オレは素人だから、祖父の気に入るものがどれか見当つかないんです。それに、適当に選ぶのも失礼だし、品はいりません。気持ちだけで充分です」
黒田がじっと晃一を凝視した。
「そうか。だが、それでは儂の面子が立たない。どうぞ、手に取ってくれ」
選ぶまで帰さないと言わんばかりに視線で促してくる。断ったところで堂々巡りになるのが関の山だ。
「……それじゃあ」
晃一は思いついたまま言ってみた。
「絵をください。これから鑑定するフェルメールの『合奏』を」
「何だって?」
声を上げたのは東郷だった。
「あれはまだオレの商品だ。坊主にくれてやるわけにはいかない」
「何、儂が買って、君にあげればよい話だ」
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