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「黒田さん! あんた、本気か。フェルメールの失われた名作ですよ? 真作なら一億、二億軽くいく。それをタダでくれてやるなんて、正気の沙汰じゃない」
「君から買った絵をどうしようと、儂の自由だがね」
「あの、オレが欲しいのはニセモノのほうです」
血相を変えた東郷と飄々としている黒田の間におずおずと割って入る。
「ニセモノを?」
「何故?」
二人が同時に晃一のほうを向き、同時に声を上げた。
「知り合いが、ニセモノでいいからフェルメールが欲しいと言っていたので」
晃一はとっさに嘘をついた。
本当は冬治のためである。昨日冬治の店を訪れたとき、冬治はフェルメールの贋作を破り捨ててほしいと言った。その後すぐに「冗談だ」と笑ったが、そう言うには理由があった。
以前、フェルメールの『手紙を書く女と召使い』を冬治に見せてもらったが、一見真作と見紛うばかりの贋作であった。それを描いたのは横山という男で、絵の修復を本業としていた。非常に才能に優れていたが、絵の勉強にと名作の模写を行なっているうちに悪徳ブローカーに目をつけられ、贋作を描かされるようになってしまったという。ブローカーは横山の絵を某巨匠の真作と偽り、方々のオークションやギャラリーに売りつけていた。
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