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「最初は騙されたと憤っていたが、相手にいい様に言いくるめられ、やがて味をしめちまった。今じゃあ、立派な贋作家だ。ホンモノよりホンモノっぽいってな。あの兄ちゃんには見破られちまったが」
冬治は始終険しい面立ちで話していた。
「俺ら同業者内でなら何も問題ない。騙されるほうが悪いって理屈がまかり通る世界だからな。だが、一般の世界ではやっちゃあいけねえんだ。あいつはその線を越えちまった」
横山は冬治の古い知り合いだった。だからこそ、取り返しがつかなくなる前に足を洗わせたいのだと言った。
「あの兄ちゃんなら、ニセモノはニセモノでも横山の絵だってわかるはずだ。ほら見ろ、本物には遠く及ばねえんだって見せつけてやれば目が覚めるかもしれねえと思ってな」
その話を思い出し、贋作をほしいと言ったのだ。横山の絵かどうかはわからないが、違ったら違ったで構わない。自分の部屋に飾っておけばいい。
東郷と黒田は納得しかねるのか、まじまじと晃一の顔を見つめた。
「両方ニセモノだったら?」
東郷が尋ねた。
「どちらか一方でいい」
「ふむ……面白い」
何か思いついたのか、黒田はにやりと笑った。
「では、こうしよう。鑑定するのは彼ではなく、君だ。そして、君が選んだほうを儂が買い、君にあげよう」
今度は東郷と晃一がまじまじと黒田を見つめる番だった。
「本気……ですね、黒田さん」
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